鶴岡市は現代建築に力を入れているのだろうか?と思うほど人の集まる箱物に面白い建築が2015年あたりから見受けられます。その一つが鶴岡市街地近くにできたスイデンテラスです。
もくじ
- 水田に浮かぶような佇まい《スイデンテラス》
- スイデンテラス探索
- 建築家・坂茂、初の宿泊施設
- 家具の一つ一つが心地よい部屋
- 最後にひとこと
水田に浮かぶような佇まい《スイデンテラス》
ショーナイホテル スイデンテラス
その名の通り水田を、つまり田んぼを観光資源とした宿泊施設です。田んぼを見世物とする発想に先ず驚きますね。一体誰が興味を示すのでしょう?
農業体験や収穫の実りを楽しむようなアクティビティーもグルメもありません。ただただ田んぼに囲まれていることがこのホテルの売りなのです。一体どう楽しめばいいのでしょう?
ホームページによると、四季の水田の表情をお楽しみあれとの趣旨が読み取れました。
初夏は苗つけされた水面を楽しみ、
晩夏は青々と伸びた稲が風に揺れる様を楽しみ、
秋は実った稲穂が頭を垂れる稲のカーブを楽しみ、
冬は一面を覆う雪の風景を楽しみ、
春は薄く張られた水面に風が作る波紋を楽しむ。
人類はいつの間にか高尚なステージに来ているようです。私はすっかり置いてけぼりを喰らっています。こんなロハスみたいなコンセプトが体現される時代が来ようとは!
心弾むものだけが魅力ではない。与えられた刺激で高揚するのではない。目の前にある継承された地域性を受容することで心は満ちてゆくのです。だって海を見渡すホテルの売りは海の眺め、そうオーシャンビュー。ならばここの売りは田んぼビュー!田んぼを心置きなく眺められるスポット、それがスイデンテラス!
けどそんな滋味深さを超えて魅了するのが、ホテルの建物です。我々はそれ目当てでしかありません。元々田んぼが身近にある東北生まれの私には、見慣れた風景でしかないというのが正直な感想です。
スイデンテラス探索
二階フロントに続くエントランスからの階段。一段目だけ材質が違って、しかも浮いてます。発注ミスでしょうか?
奥には時代を映すフォトスポットが見えます。
ウェルカム トゥ ショーナイ
イートビート! イートビート!
フォトジェニック。映えー。
館内は明るい木の色、ガラス張りで光が入るナチュラルな造りです。贅沢に設えられた優しさ感が溢れています。
建築家・坂茂の初の宿泊施設
スイデンテラスは建築家・坂茂(ばんしげる)の初設計の宿泊施設とのこと。坂さんの代名詞、厚紙ポールもいろんなところに使われています。フロント近くのこちらの椅子では表面に注目!ブルボンのローリエのような細い管がそれです。
このどら焼きのような建物は大浴場棟です。板さんは甘党なのでしょうか?
地下にはジムスペースがありました。
大浴場棟の中。きらびやかなタイルの内側が女風呂、外側に男風呂。広くはないものの浴場としての機能は差し支えありません。
ただし、側面の窓への結露が心配になるほど付いていました。ナチュラルさを損なう程に窓枠のへりにタオルを貼り付けてあるのが生活感を醸し出していました。天井など木材へのダメージが激しそうです。訪ねたのが冬なので外との温度差で結露が出やすのもあるでしょう。著名な建築家でも湿気のこもり方は、使ってみなけりゃわからないのかもしれません。
各棟をつなぐ通路はすっきりきれい。
家具の一つ一つが心地よい部屋
コンパクトにまとまった居室。テレビの上の口からはエアコンの風が出て来ます。その上に間接的に照る蛍光灯の明かり。無駄なく居心地のいい作りでした。
テーブルの支柱にも厚紙ポール。
ベッドにも厚紙ポール。まるで巨大ローリエ、または巨大トッポ。
そして好印象なカーテンが!ロールスクリーンの生地をスリット状に並べた物です。
その名も、バーチカルブラインド!
光の入り方と縦のすっきり感を気に入り、後に我が家の大きな窓にも付けました。これと出会っただけでもここに来てよかったです。
カルディに置いていそうなイタリアの炭酸ドリンクなどおしゃれ雑貨フードが、飲食スペースの店先に並んでいます。地場お土産はしっかりと別の場所にあり、ここはあくまで小洒落た商品を提供するコーナーです。
田んぼビューしながらブックコーナーで一休みもできます。
最後にひとこと
スイデンテラスは居住空間として参考になる発見もあり、好みに合う空間でもあり建物見物として楽しめました。ただし宿泊としてのリピートはないでしょう。
星3 ★★★☆☆
ホテルにホスピタリティーを求める人は満足できないかもしれません。おもてなしの接客はフロントの応対にも感じられませんでした。私は旅行で泊まった際、フロントで最寄りにあるおすすめの食事処を聞くのですが、飲食店は付近にないとの回答が返って来ました。
これが悪い接客ということではありません。スイデンテラスが提供するのはその手のホスピタリティーではないのです。
周辺に企業や大学の研究所がある立地、そしてナチュラルモダンな建物と田んぼビュー。おそらく都市から来た出張者に、ビジネスホテルにはないそれらの価値を提供するのがスイデンテラスなのでしょう。これが、ホテルが観光資源として田んぼを使うあり方の一つなのだと感じました。
おまけ
ちなみに、おすすめの食事処は『べんけい』です。たまたま見つけて入った店ですが、大当たりの店でした。和食好みの妻も、魚が苦手で食事に関心のない私も、うまい〜!と言い続けた和洋創作居料理店。鶴岡市内ですがスイデンテラスからは車移動が必要な距離です。
お通しからうまい。
ウマヅラの刺し身もうまい。
肝を醤油でといて絡ませて食べる。カウンターでさばいていた大将によると、海側の町ならではの珍しい刺し身とのことでした。たまにあるコリッとした食感も美味しかったです。
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